贈賞理由(文化庁HPより)
亀井若菜氏
亀井若菜氏はこれまで日本中世美術史のパフォーマティヴな解読を追究してき た。研究者が「神」の立場に身を置いて作品の「客観的特性」を解き明かすという伝統的な美術史の方法に対し,氏の武器は,作品をあらしめている社会的・歴史 的条件の分析,表象としての作品の精緻な解読,そして女性研究者としての自身の考え方に対する意識である。読者は,「粉河寺縁起絵巻(こかわでらえんぎ えまき)」,「信貴山縁起絵巻(しぎさんえんぎえまき)」,「掃墨物語絵巻(はいずみ ものがたりえまき)」の3点の中世絵巻について,単に所与の結論を与えられるのではなく,当時の男女の社会的役割の差異に基づく解釈によって,これらの絵巻 が時に思い掛けない結末を示していることを心ときめかせつつ知るのである。
山本聡美氏
九相図(くそうず)とは女性の死体が腐敗し,白骨化する変化を9段階で描き表す絵画のことだが,本書はその歴史と意味を解き明かした好著である。男性の煩悩滅却の仏教修行に用いられた九相図(くそうず)は,不浄と無常の絵画として多
様な展開を見せた。説話文学と交差し,漢詩や和歌と融合し,絵解きや版本によ る大衆化を経て近現代絵画に至るまで,脈々と続く九相図(くそうず)の伝統と変
容の有様を紹介し,日本人の死生観にまで迫ろうとした努力は顕彰に値する。学術の成果を分かりやすく一般に伝えた点も評価したい。
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