学会代表挨拶
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2012年7月 鈴木廣之
2011年6月 小佐野重利
2010年7月 小佐野重利
2009年7月 小佐野重利
2007年8月 浅井和春
2006年7月 小佐野重利
2004年7月 河野元昭
2002年5月 小川裕充

2012年7月
会員の皆さんへ
2012年度−2015年度  美術史学会の展望と課題
新任のご挨拶をかねてメッセージをお届けします。現在の美術史学会がおかれた状況と課題や将来的な展望について、ご理解いただければ幸いです。
美術史学会の民主的運営のために
美術史学会は1949年(昭和24)6月に設立されました。この年の1月の法隆寺金堂の失火事件が、東京と関西で同時に起こった学会設立の気運を加速しました。当初、二百余名でスタートした美術史学会は、1980年(昭和55)に会員数が一千名を越え、1995年(平成7)に二千名を越えて現在に至っています。今年5月に開催された第65回全国大会(於國學院大學)の総会では会員総数が2,435名であるとの報告がありました。

会員数はその分野の研究の広がりを推し量るバロメータです。学会設立以来の会員総数の増加は美術史研究の順調な進展を示すもので、この点では喜ばしいものです。しかし近年では、新入会員と退会者(会費未納による自然退会者を含む)との数が拮抗しており、長期的にみれば会員総数のゆるやかな減少傾向に転じています。現在は健全な財務状態が維持されていますが、会員の年会費に収入源を頼る当学会としては、将来を見すえた長期的な展望が求められています。

人文科学の分野では、会員数二千人規模の学会は他に、日本語学会(2004年に国語学会を改称)があるだけです。美術史学会は、小規模学会の林立する人文科学の分野では大きな存在です。美術史の学問的基盤がひとつの学会で統一的に支えられている点は学問の発展にとって望ましいことです。しかしそれだけに、学会の運営には会員全員の利益や権利の保全と伸張を前提にした透明性と公平性が求められます。

学会の運営は、東西ふたつの支部におかれた常任委員会によって行なわれ、それぞれの支部に所属する会員の投票によって毎年、常任委員が選ばれる代議員制をとっています。会員の構成は、大学教員、美術館・博物館学芸員、大学院生がほぼ三分の一ずつの割合を占めています。常任委員会は民主的な運営が行なわれていますが、委員会は会員の構成を必ずしも反映したものになっていません。とくに美術館・博物館に所属する常任委員は少なく、大多数を大学教員が占めています。同様に、常任委員の男女比は、会員全体の比率とかなりかけ離れています。これらは望ましい傾向ではなく、今後の改善が期待されます。

学会の民主的運営の維持は、いうまでもなく会員の皆さんの考えと行動にかかっています。投票権の行使とならんで、これらの点へのご配慮をお願いいたします。また、学会運営の新陳代謝をはかるためにも、若い世代の皆さんの学会運営と活動への積極的な参加を期待します。
美術史の調査・研究活動の活性化のために
美術史研究にはフィールドワークが欠かせません。調査・研究のための予算の削減があたりまえの昨今の状況では、誰もが外部資金の調達を考えざるをえません。そのような「競争的研究資金」の代表的なものに日本学術振興会が運営する科学研究費補助金(一部の大型プロジェクトは文部科学省研究振興局学術研究助成課の扱い)、通称「科研費」があります。科研費はこれまで日本の学術の発展に大きく寄与してきましたが、美術史の分野でも科研費による数多くの研究成果があげられてきました。採択された美術史学会員の研究については毎年、一覧表が『会報』に掲載されます。

科研費は10年ごとに「系・分野・分科・細目表」の見直しが行なわれ、その間の5年目に小規模な手直しが行なわれます。「系・分野・分科・細目表」とは、その学問分野の属する分類表です。美術史は分野「人文学」・分科「哲学」・細目「美学・美術史」に属します。今年の秋に応募のはじまる25年度(2013)科研費が、10年ごとの大改正の年に当たります。新しい「系・分野・分科・細目表」はすでに公表されており、美術史は25年度から分科「芸術学」・細目「美術史」に移行します。

科研費の分科細目には、その分野の学術的な認知度が反映されます。新しい学問領域が隆盛すると、それに応じて分科細目に名称が書き加えられます。反対に、その分野の応募件数が少なくなると、他の細目と統合されたり廃止の対象になったりします。美術史は平成15年度(2003)の改正によって、細目「美学(含芸術諸学)」と統合され「美学・美術史」になりました。以来、単独の細目に復帰するのは10年ぶりです。今後は応募件数が単独細目維持の目安になります。今年も多くの皆さんの応募を期待しています。

ちなみに科研費の採択率は一律、約25パーセントといわれています。「一律」ということは、応募件数の多い細目には採択率を維持するだけの予算が充当される仕組みです。前もって決められた予算額をその細目の応募者で取り合うわけではありません。

しかしここには問題があります。科研費の場合、応募するための資格をもつことが条件です。応募者が大学に所属する場合は問題ありませんが、美術館・博物館などの機関に所属する場合は、その機関が文部科学大臣の指定する研究機関であることが条件です。機関が「研究機関」として指定されるためには、機関として事前に書類手続きを行ない、審査を受ける必要があります。残念ながら、会員の所属する全国の美術館・博物館の多くは科研費の応募資格をもっていません。この問題については次項に取り上げるので、ご覧ください。
美術館・博物館の環境改善に向けて
全国の美術館・博物館が依然として厳しい状態にあることは、皆さんもご承知のことと思います。はじまりは行財政改革の一環として行なわれた2001年(平成13)の国立博物館と美術館の独立行政法人化でした。美術史学会でも法人化の是非を問うシンポジウムを開催しました。

その後は経済不況による自治体の税収入の落ち込みを背景にした、美術館・博物館の指定管理者制度の導入が問題になりました。その口火を切った芦屋市立美術博物館の問題はマスコミにも大きく取り上げられました。2003年(平成15)10月、芦屋市より館の民営化方針が打ち出されました。2006年度までに民間委託し、委託先が見つからない場合は売却または休館するというもので、全国の公立館への波及が懸念されました。美術史学会では芦屋市立美術博物館の存続を主張する要望書を作成して関係各方面へ提出しました。

これらの問題は美術館・博物館の公共性をあらためて問い直し、設置者としての自治体の責任の所在を明確化するプラスの側面もありましたが、現実はそれ以上に厳しく、美術館・博物館をとりまく環境は好転の兆しをみせないまま推移しています。とりわけ雇用の問題は深刻です。

これまでにも学芸員の定員数の削減が問題化されましたが、新たな事態として、学芸員の新規採用に際し、正規の職員として処遇しない非正規雇用の形態をとる館がふえています。この問題は、今年4月、当学会の東西合同シンポジウム「いまどきの新・学芸員:採用の現状と未来」(於大阪大学会館アセンブリーホール)で議論され、大きな反響を呼びました。1980年代に開館があいついだ公立館の設立にかかわった学芸員の第一世代が引退時期を迎えている現在、当学会としても、事態の推移を見きわめる必要があります。

前項でふれた科研費の問題もあります。現在、研究機関として文部科学大臣の指定を受け、科研費の申請ができる機関は、独立行政法人化された国立博物館、国立美術館(国立新美術館を除く)、文化財研究所のほか、栃木県立美術館、出光美術館、神奈川県立金沢文庫、神奈川県立近代美術館、神奈川県立歴史博物館、山梨県立博物館、MOA美術館、徳川美術館、泉屋博古館、大阪市立東洋陶磁美術館、大阪歴史博物館、黒川古文化研究所、大和文華館、九州歴史資料館、福岡市美術館などです。しかし美術館・博物館をとりまく厳しい状況もあり、指定機関の拡大は足踏み状態です。当面はこれらの機関に研究拠点としての役割を期待せざるをえませんが、美術館・博物館の研究環境の向上にかかわる重要な問題であるだけに、今後も現状の改善に取り組んでいきます。
美術史の情報発信
学会誌『美術史』の編纂・刊行事業は美術史学会の最重要事項のひとつです。当学会ではこれまで、ワーキング・グループを組織して欧文『美術史』の刊行を検討してきましたが、その報告をうけ、今年度から新たに欧文『美術史』準備委員会を発足させ、刊行に向けて本格的な作業を進めます。その内容や刊行形態など、詳細は委員会の検討作業に託すところですが、経過については随時ご報告する予定です。

昨年3月11日に発生した太平洋沖地震による東日本大震災については、当学会の会員も被災者に含まれており、申請により年会費を免除する緊急措置をとりました。また、美術品や文化財の救出と保全や修復に取り組まれた会員も少なくありません。しかし学会全体として今回の震災に直接かかわる機会を見出せなかったことは残念です。今年度は学会としていま何ができるかを考え、実際の活動に結び付けていきたいと考えています。

美術史学会の運営と活動には、いうまでもなく会員の皆さんのご理解と協力が欠かせません。微力ではありますが、常任委員の皆さんと手をたずさえながら学会の発展に尽力したいと考えていますので、ご支援くださいますようお願いいたします。
2012年7月5日
 美術史学会代表委員 鈴木廣之

2011年6月20日
2011年度の美術史学会の活動に向けて

 1949年にわずか201名の会員数で創設された美術史学会も63年が過ぎました。2011年5月に同志社大学で開催された第64回全国大会の総会時には、会員数は2458名で当初の12倍ですが、昨年度同時期より16名減少しています。近年は、ほぼこれと前後する数を維持しています。
 引き続き1年間、学会代表委員を拝命しましたが、前年度同様に常任委員会メンバーと協議の上、全学会員の皆様のためにも、わが国における美術史学研究をさらに振興させるためにも、美術史学会の活動環境の整備や運営に鋭意努力していくつもりです。
 学会は、人文系の学会として飛躍的な発展を遂げ、また美術史学研究は一段と高度化するとともにその裾野が広がりました。
 その一方で、21世紀に入って、国立博物館、国立美術館および文化財研究所の独立行政法人化や公立美術館博物館への指定管理者制度の導入、その後間もなく、政府による独立行政法人国立博物館・文化財研究所・国立美術館の事務及び事業改善の内容の発表や独立行政法人国立博物館と独立行政法人文化財研究所の統合、そして一昨年度には独立行政法人等の事業仕分けなどが行なわれました。これらに代表されるように、美術史学会員、および美術史学研究とその公開に従事する研究者や学芸員を取り巻く環境は急激に変化し、むしろ悪化の傾向にあります。学会としては、こうした政府の方針に対し、国立博物館と文化財研究所の統合の際に後者の事業活動の継続を憂慮することをアピールする要望書を関係省庁・機関に提出しましたし、2009年11月には「地方分権改革推進委員会第3次勧告における博物館法の見直しに対する反対声明」を、2010年5月には「美術品の国家補償制度の設立に対する意見表明」をそれぞれ関係大臣・副大臣・大臣政務官、あるいは文化庁長官に提出しました。特に2011年3月25日に参議院本会議、3月29日に衆議院本会議でそれぞれ可決された美術品国家補償法が施行されるにあたって、学会からの意見表明が反映されることを願っています。
 この逆風のなかにあって、歴代学会代表と常任委員会の努力が実り、美術館・博物館学芸員の科学研究費代表申請資格の取得が各館の個別申請により可能となり、すでに毎年いくつかの公私立の美術館博物館がその資格の取得に成功していることは喜ぶべきことです。
 したがいまして、学会員の研究活動の環境を大きく変えるような政策や外的な動向に対しては、今までどおり、美術史学会としてさまざまな形でアピールし、場合によっては要望書を提出していくことが必要です。
 一方、全学会員の皆様に対しては、これまでどおり学会活動に参加しやすい環境整備を目指していきます。しかし、学会の現状を冷静に分析しつつ、学会活動と運営について長期的な展望に立つとき、いささか不安なこともあります。
 第一に、学会員数は、入会者数と学会費未納による自然退会者をふくむ退会者数がほとんど拮抗しており、過去数年来、ほぼ横ばいの状態です。学会は会員の会費だけが収入源でありますから、特別の企画事業を展開しない限り収入の増加はあまり見込めません。一方で、学会の環境整備を充実するには支出の増加は必定です。環境整備の拡充のために貯蓄している環境整備費については、再び多少の積立ができるように努力していく方針でいます。数年前には会員資格を拡大して、入会者の増加を図る規約改正を行ないましたが、今のところ会員の増加を促進するまでには至っていません。将来的には団体会員とか賛助会員を募集するかどうかも、常任委員会においてあらためて検討していく必要があります。
 学会活動への会員の皆様の参加としては、学会誌への論文等の投稿と大会や例会での研究発表やパネラー発表だけでなく、なによりも大会および例会への参加が大きな柱でしょう。このため、できるだけ多くの会員が直接参加できるように常任委員会として引き続き努力していきます。しかし、掲載論文が増えると当然ながら編集出版費が増えますし、大会で研究発表数を増やすには、発表会場の制約の問題を考えなくてはなりません。特に、近年大会参加者が増加したことは、それ自体としてはまことに慶賀すべきことですが、日本東洋・西洋部会ともに350人以上を超える参加者を収容できる講義室や講堂などを複数備えた大学がほとんどないという、ゆゆしき問題があります。最近4回の全国大会は、大学生活協同組合学会支援センターに大会運営に協力していただいて、従来どおり当番大学の講義室・講堂・大会議室を利用して行いました。常任委員会で議論を重ねた末に来年度の第65回全国大会は、最終的に國學院大学に当番機関をお願いしました。今後は大会会場として学外のシンポジウム・コンフェランス専用施設などを高額料金で借り上げ、これまでどおりの当番大学による大会運営を続けていくべきなのかどうかは、特に喫緊の検討課題です。
 しかし、学会はこうした目先の問題や課題に対処するだけではいけません。今日、我が国の人文学全般が沈滞気味であると各方面から声があがり、人文学の再編の動きが表面化しつつあります。学会もまたこの機会に、終戦後まもない1949年の学会創設当時に立ち返って、学会創設の理念、ひいては学会を支える美術史研究の存在理由を問い直すことが必要であると思います。近年、全国大会シンポジウムを、外国人研究者を交えた発表や討論の場としたり、また外国人研究者による講演会等を開催することによって、会員の皆様が世界の美術史研究の動向の一端に直接触れる機会を増やしています。もとより美術史は、研究方法の点では、美学、歴史・文化学、精神分析学、文学、人類学、民俗学、宗教学などの隣接学問分野から影響を受けたり、あるいは影響を与えたりしながら発展してきました。それゆえ、美術史はかねてより学際的な研究を歓迎するとともに、その研究の領域も、今では絵画・彫刻・建築・工芸一般という、いわゆる「美術」だけでなく、広告ポスター、アニメ、まんが、テレビ・コマーシャル、ビデオなどメディア・アートにまで広がっています。また一方で、世界的にはいわゆる「世界美術史」の構築をめざす研究動向とともに、世界の各地域の伝統の上に独自の美術史研究方法を模索する動きが、美術史のグロバリゼーションとリージョナリズムの並行現象でもあるかのように、競合しています。こうした美術史の置かれた世界的な状況のなかで、学会が我が国の美術史の伝統を振り返り、今後どの方向に歩むべきかを慎重に考えることは、美術史が人文学の一研究領域として生き残るために欠かせないことであると確信しています。これに関連して、「平成25年度科学研究費補助金の「系・分野・分科・細目表」の改定」に対しては、日本学術振興会に三度にわたり美術史学会の要望を提出してきました。
 以上、昨年度から検討し、すでに文部科学省や日本学術振興会に要望していることに対しては回答を求め、また引き続き検討すべき課題に対しては一応の方針を提示するべく努めます。そのためには、学会員の皆様からのご意見を反映させながら、常任委員会の全委員と慎重に協議を重ねていくつもりです。
 最後に、2011年3月11日に起こった東日本大震災および原発事故被害に対する学会としての対応を検討することが新たな課題です。すでに5月の全国大会前日の東西支部合同常任委員会において、東日本大震災被災地域会員の学会費の免除を決定して、免除申請方法について本ホームページに掲載しました。一方、 被災地の美術館・博物館等文化施設が特別・常設展示や作品収集などの震災前の活動を十全に再開できるまでには、長い月日と資金を要することが予想されます。学会としても、その活動の再開・復旧に対して、今後、特に学術的な観点からの美術品の修繕・保管対策などを含む支援の仕組みづくりを検討し、積極的に協力していきたいと考えております。
 学会員の皆様のご支援を心よりお願い申し上げます。

学会代表 小佐野重利

2010年7月1日
2010年度の美術史学会の活動に向けて

 1949年にわずか201名の会員数で創設された美術史学会も62年が過ぎました。2010年5月に学習院大学で開催された第63回全国大会の総会時には、会員数は2474名で、当初の12倍となり、昨年度同時期より13名増加しています。近年は、ほぼこれと前後する数を維持しています。
引き続き1年間、学会代表委員を拝命しましたが、前年度同様に常任委員会メンバーと協議の上、全学会員の皆様のためにも、わが国における美術史学研究をさらに振興させるためにも、美術史学会の活動環境の整備や運営に鋭意努力していくつもりです。
 学会は、人文系の学会として飛躍的な発展と遂げ、また美術史学研究は一段と高度化するとともにその裾野が広がりました。
 その一方で、21世紀に入って、国立博物館、国立美術館および文化財研究所の独立行政法人化や公立美術館博物館への指定管理者制度の導入が行なわれ、その後間もなく、政府による独立行政法人国立博物館・文化財研究所・国立美術館の事務及び事業改善の内容の発表や独立行政法人国立博物館と独立行政法人文化財研究所の統合、そして昨年度には独立行政法人等の事業仕分けなどが行なわれました。これらに代表されるように、美術史学会員、および美術史学研究とその公開に従事する研究者や学芸員を取り巻く環境は急激に変化し、むしろ悪化の傾向にあります。学会としては、こうした政府の方針に対し、国立博物館と文化財研究所の統合の際に後者の事業活動の継続を憂慮することをアピールする要望書を関係省庁・機関に提出しましたし、2009年11月には「地方分権改革推進委員会第3次勧告における博物館法の見直しに対する反対声明」を、2010年5月には「美術品の国家補償制度の設立に対する意見表明」をそれぞれ関係大臣・副大臣・大臣政務官、あるいは文化庁長官に提出しました。
 この逆風のなかにあって、歴代学会代表と常任委員会の努力の甲斐があって美術館・博物館学芸員の科学研究費代表申請資格の取得が各館の個別申請により可能となり、すでに毎年いくつかの公私立の美術館博物館がその資格の取得に成功していることは喜ぶべきことです。この4月から新たに福岡市美術館が科学研究費申請の指定機関に認められました。
 したがいまして、学会員の研究活動の環境を大きく変えるような政策や外的な動向に対しては、今までどおり、美術史学会としてさまざまな形でアピールし、場合によっては要望書を提出していくことが必要です。
 一方、全学会員の皆様に対しては、これまでどおり学会活動に参加しやすい環境整備を目指していきます。しかし、学会の現状を冷静に分析しつつ、学会活動と運営について長期的な展望に立つとき、いささか不安なこともあります。
 第一に、学会員数は、入会者数と学会費未納による自然退会者をふくむ退会者数がほとんど拮抗しており、過去数年来、横ばいもしくは微増の状態です。学会は会員の会費だけが収入源でありますから、特別の企画事業を展開しない限り収入の増加はあまり見込めません。一方で、学会の環境整備を充実するには支出の増加は必定です。環境整備の拡充のために貯蓄している環境整備費も、昨年度の学会予算案の段階でこれまでのような経常的な積立はできなくなっています。数年前には会員資格を拡大して、入会者の増加を図る規約改正を行ないましたが、今のところ会員の増加を促進するまでには至っていません。将来的には団体会員とか賛助会員を募集するかどうかも、常任委員会においてあらためて検討していく必要があります。
 学会活動への会員の皆様の参加としては、学会誌への論文等の投稿と大会や例会での研究発表やパネラー発表だけでなく、なによりも大会および例会への参加が大きな柱でしょう。このため、できるだけ多くの会員が直接参加できるように常任委員会として引き続き努力していきます。しかし、掲載論文が増えると当然ながら編集出版費が増えますし、大会で研究発表数を増やすには、発表会場の制約の問題を考えなくてはなりません。特に、近年大会参加者が著しく増加したことは、それ自体としてはまことに慶賀すべきことですが、日本東洋・西洋部会ともに500人以上を超える参加者を収容できる講義室や講堂などを複数備えた大学がほとんどないという、ゆゆしき問題があります。最近3回の全国大会は、大学生活協同組合学会支援センターに大会運営に協力していただいて、従来どおり当番大学の講義室・講堂・大会議室を利用して行いました。しかし、今後は、大会会場として学外のシンポジウム・コンフェランス専用施設などを、高額料金を支払って借り、これまでどおりの当番大学による大会運営を続けていくべきなのかどうかも、また、検討すべき課題です。
 しかし、学会はこうした目先の問題や課題に対処するだけではいけません。今日、我が国の人文学全般が沈滞気味であると各方面から声があがり、人文学の再編の動きが表面化しつつあります。学会もまたこの機会に、終戦後まもない1949年の学会創設当時に立ち返って、学会創設の理念、ひいては学会を支える美術史研究の存在理由を問い直すことが必要であると思います。近年、全国大会シンポジウムを、外国人研究者を交えた発表や討論の場としたり、また外国人研究者による講演会等を開催することによって、会員の皆様が世界の美術史研究の動向の一端に直接触れる機会を増やしています。もとより美術史は、研究方法の点では、美学、歴史・文化学、精神分析学、文学、人類学、民俗学、宗教学などの隣接学問分野から影響を受けたり、あるいは影響を与えたりしながら発展してきました。それゆえ、美術史はかねてより学際的な研究を歓迎するとともに、その研究の領域も、今では絵画・彫刻・建築・工芸一般という、いわゆる「美術」だけでなく、広告ポスター、アニメ、まんが、テレビ・コマーシャル、ビデオなどメディア・アートにまで広がっています。また一方で、世界的にはいわゆる「世界美術史」の構築をめざす研究動向とともに、世界の各地域の伝統の上に独自の美術史研究方法を模索する動きが、まるで美術史のグロバリゼーションとリージョナリズムの並行現象でもあるかのように、競合しています。こうした美術史の置かれた世界的な状況のなかで、学会が我が国の美術史の伝統を振り返り、今後どの方向に歩むべきかを慎重に考えることは、美術史が人文学の一研究領域として生き残るために欠かせないことであると確信しています。
 以上、昨年度から検討し、すでに文部科学省や関係機関に要望していることに対しては回答を求め、また引き続き検討すべき課題に対しては一応の方針を提示するべく努めます。そのためには、学会員の皆様からのご意見を反映させながら、常任委員会の全委員と慎重に協議を重ねいくつもりです。
 学会員の皆様のご支援を心よりお願い申し上げます。

学会代表 小佐野重利

2009年7月1日
2009年度の美術史学会の活動に向けて
  1949年にわずか201名の会員数で創設された美術史学会も61年が過ぎました。2009年5月に京都大学で開催された第62回全国大会の総会時には、会員数は2461名で、当初の12倍となり、近年はほぼこの数を維持しています。
 このたび1年間、学会代表委員を拝命しましたが、常任委員会メンバーと協議の上、全学会員の皆様のためにも、わが国における美術史学研究をさらに振興させるためにも、美術史学会の活動環境の整備や運営に鋭意努力していくつもりです。
 特に1980年代から会員数が大幅に伸びたため、人文系の学会としてはかなり大きな規模の学会にまで発展し、また美術史学研究が高度化するとともにその裾野が広がったことは喜びとするところであります。
 しかしながら、21世紀に入って以降、国立博物館、国立美術館および文化財研究所の独立法人化や公立美術館博物館への指定管理者制度の導入などに代表されるように、美術史学会員、および美術史研究とその公開に従事する研究者や学芸員を取り巻く環境は急激に変化し、むしろ悪化の傾向にあるといえます。近年では独立行政法人国立博物館・文化財研究所・国立美術館の事務及び事業改善の内容が政府によって発表され、また独立行政法人国立博物館と独立行政法人文化財研究所の統合が行われました。こうした政府の方針に対し、特に国立博物館と文化財研究所の統合に際しては、美術史学会は学会代表の名前で後者の事業活動の継続を憂慮することをアピールする要望書を関係省庁・機関に提出しました。
 この逆風のなかにあって、歴代学会代表と常任委員会の努力の甲斐があって美術館・博物館学芸員の科学研究費代表申請資格の取得が各館の個別申請により可能となり、すでに毎年いくつかの公私立の美術館博物館がその資格の取得に成功していることは喜ぶべきことです。今年度は、福岡市美術館が資格取得のため申請すると聞いております。
 したがいまして、学会員の研究活動の環境を大きく変えるような政策や外的な動向に対しては、今までどおり、美術史学会としてさまざまな形でアピールし、場合によっては要望書を提出していくことが必要です。
 一方、全学会員の皆様に対しては、学会活動に参加しやすい環境整備を目指してきました。しかし、学会の現状を冷静に分析しつつ、学会活動と運営について長期的な展望に立つとき、いささか不安なこともあります。
 第一に、学会員数は、入会者数と学会費未納による自然退会者をふくむ退会者数がほとんど拮抗しており、過去数年来、横ばいもしくは微増の状態です。学会は会員の会費だけが収入源でありますから、特別の企画事業を展開しない限り収入の増加はあまり見込めません。一方で、学会の環境整備を充実するには支出の増加は必定です。環境整備の拡充のために貯蓄している環境整備費も、本年度の学会予算案の段階でこれまでのような経常的な積立はできなくなっています。数年前には会員資格を拡大して、入会者の増加を図る規約改正を行ないましたが、今のところ会員の増加を促進するまでには至っていません。将来的には団体会員とか賛助会員を募集するかどうかも、常任委員会においてあらためて検討していく必要があります。
 学会活動への会員の皆様の参加としては、学会誌への論文等の投稿と大会や例会での研究発表やパネラー発表だけでなく、なによりも大会および例会への参加が大きな柱でしょう。このため、できるだけ多くの会員が直接参加できるように常任委員会として引き続き努力していきます。しかし、掲載論文が増えると当然ながら編集出版費が増えますし、大会で研究発表数を増やすには、発表会場の制約の問題を考えなくてはなりません。特に、近年大会参加者が著しく増加したことは、それ自体としてはまことに慶賀すべきことですが、日本東洋・西洋部会ともに500人以上を超える参加者を収容できる講義室や講堂などを複数備えた大学がほとんどないという、ゆゆしき問題があります。最近2回の全国大会は、大学生活協同組合学会支援センターに大会運営に協力していただいて、従来どおり当番大学の講義室・講堂・大会議室を利用して行いました。しかし、今後は、大会会場として学外のシンポジウム・コンフェランス専用施設などを、高額料金を支払って借り、これまでどおりの当番大学による大会運営を続けていくべきなのかどうか、これもまた検討すべき課題です。
 しかし、学会はこうした目先の問題や課題に対処するだけではいけません。今日、我が国の人文学全般が沈滞気味であると各方面から声があがり、人文学の再編の動きが表面化しつつあります。学会もまたこの機会に、終戦後まもない1949年の学会創設当時に立ち返って、学会創設の理念、ひいては学会を支える美術史研究の存在理由を問い直すことが必要であると思います。各大学・研究機関でさかんに開催される国際シンポジウムや研究集会に倣って、一昨年来、学会としても後ればせながら全国大会のシンポジウムを、外国人研究者を交えた発表や討論の場とし、会員の皆様が世界の美術史研究の動向の一端に直接触れることのできるようにしました。もとより美術史は、研究方法の点では、美学、歴史・文化学、精神分析学、文学、人類学、民俗学、宗教学などの隣接学問分野から影響を受けたり、あるいは影響を与えたりしながら発展してきました。それゆえ、美術史はかねてより学際的な研究を歓迎するとともに、その研究の領域も、今では絵画・彫刻・建築・工芸一般という、いわゆる「美術」だけでなく、広告ポスター、アニメ、まんが、テレビ・コマーシャル、ビデオなどメディア・アートにまで広がっています。また一方で、世界的にはいわゆる「世界美術史」の構築をめざす研究動向とともに、世界の各地域の伝統の上に独自の美術史研究方法を模索する動きが、まるで美術史のグロバリゼーションとリージョナリズムの並行現象でもあるかのように、競合しています。こうした美術史の置かれた世界的な状況のなかで、学会が我が国の美術史の伝統を振り返り、今後どの方向に歩むべきかを慎重に考えることは、美術史が人文学の一研究領域として生き残るために欠かせないことであると確信しています。
 以上、私の学会代表任期中に検討して一応の回答あるいは方針を出すべきであると考える課題を思いつくままに記しました。学会員の皆様からのご意見を反映させながら、常任委員会の全委員と慎重に協議を重ね、以上の課題や不測の突発的な問題について対処していくつもりです。
 学会員の皆様のご支援を心よりお願い申し上げます。
学会代表 小佐野重利

2007年8月1日

 このたび学会の代表委員を務めることになりました浅井です。1949年にわずか201名の会員数で創設された美術史学会も、現在では2400余名をかぞえる大所帯となり、その運営にあたってもさまざまな難題が山積しているのは皆さんもご承知のとおりです。そして近年、ますますその度を深めつつあるかにみえる経済偏重のご時世下、本来利潤の追究とは正反対に位置する藝術・文化にたいし、美しい日本の「文化力」を声高にかかげる政府をはじめ世間一般の目も、決して暖かいものとはいい難い現実が横たわっています。近年の国立博物館や国立美術館、および文化財研究所の独立行政法人化はもとより、公立美術館・博物館等への指定管理者制度の導入はその最たるものでしょうし、大学教育の現場においても、その基礎をなす小・中・高の美術や歴史の時間が年々縮小されていることもあって、以前のように多数の優秀な学生を迎えてより専門性の濃い教育・研究をおこなえる場が徐々に減少し、美術史学にたいする研究費も総体として削減傾向にあるのは事実です。また、日本・東洋美術においては近年、作品保存のため一部の寺院や博物館等の照明が極端に暗くなり、じっくり実物を細部まで観察して考えを深める機会が失われつつあるという点も、かなり難しいこととはいえ研究環境の悪化といわざるを得ません。いずれにせよ、このような厳しい現状にあってわが美術史学会は、常任委員に選ばれた方々(なんと15%に満たない投票率の結果です!)の涙ぐましいボランティア精神のもとに、美術史研究のためのより良い環境づくりに日々いそしんでこられて今日にいたっていることも、会員の皆さんは当然ご存じのことと推察いたします。
 さて、今年度の学会運営にあたっては常任委員会の諸委員ともども、これまでと同様、学会員相互の研究活動の推進と親睦のため年2回の学会誌発行と年1回の全国大会と東西支部大会、および年5回の東西各例会による発表等々、美術史学会本来の設立趣旨に沿ってさまざまな活動をすすめていきたいと考えます。当然のことながら、これらは学会の構成メンバーである皆さん一人一人のご助力なくしては成し得ません。『美術史』への投稿や全国大会・例会等への発表希望はもとより、美術史研究の推進にたいする新たな提案、そして同研究への新たな障害等へのご意見など、学会運営にたいする積極的なご参加とご協力をお願いいたします。
なお、学会運営への参加・協力の第一歩が、まず常任委員の選挙への投票行動にあるということも、皆さんには改めてご理解いただければ幸いです。

代表委員 浅井和春

2006年7月1日
2006年度の美術史学会の活動に向けて

 1949年にわずか201名の会員数で創設された美術史学会も、56年が過ぎた2006年5月の名古屋大学大会の時には2465名と、会員数が12倍になっています。
 図らずも、このたび1年間だけ学会代表委員を拝命しましたが、常任委員会メンバーと協議の上、全学会員の皆様のためにも、ひいてはわが国における美術史学研究をさらに振興させるためにも、美術史学会の活動環境の整備や運営に鋭意努力していくつもりです。
 特に1980年代から会員数が大幅に伸びたため、人文系の学会としてはかなり大きな規模の学会にまで発展し、美術史学研究が高度化するとともにその裾野が広がったことは喜びとするところであります。
 しかしながら、21世紀に入って以降、国立博物館、国立美術館および文化財研究所の独立法人化や公立美術館博物館への指定管理者制度の導入などに代表されるように、美術史学会員、および美術史研究とその公開に従事する研究者や学芸員を取り巻く環境は急激に変化し、むしろ悪化の傾向にあることは事実です。最近では、独立行政法人国立博物館と独立行政法人文化財研究所の統合決定や、独立行政法人国立博物館・文化財研究所・国立美術館の事務及び事業改善の内容が政府によって発表されたのに対し、美術史学会として河野元昭前学会代表の名前で、特に後者の事務及び事業改善の内容を憂慮することをアピールする要望書を関係省庁に提出したばかりです。
 この逆風のなかにあって、美術史学会として喜ぶこともあります。歴代学会代表と常任委員会の努力の甲斐があって美術館・博物館学芸員の科学研究費代表申請資格の取得が各館個別申請により可能となり、すでに毎年いくつかの公私立の美術館博物館がその資格の取得に成功していることです。
 したがいまして、学会員の研究活動の環境を大きく変えるような政策や外的な動向に対しては、今までどおり、美術史学会としてさまざまな形でアピールしていくことが必要です。
 これに対し、全学会員の皆様に対しては、学会活動に参加しやすい環境整備を目指してきました。しかし、学会の現状を冷静に分析しつつ、学会活動と運営について長期的な展望に立つとき、いささか不安なこともあります。
 まず第一に、過去数年、学会員数は、入会者数と学会費未納による自然退会者をふくむ退会者数がほとんど拮抗しており、横ばいもしくは微増の状態です。美術史学会は会員の会費だけが収入源でありますから、特別の企画事業を展開しない限り収入の増加はあまり見込めません。一方で、学会の環境整備を充実するには支出の増加が必定です。環境整備の拡充のために貯蓄している環境整備費も、学会予算案の段階で積立予算額を年500万円から年400万円に減らさなくてはならなくなっています。昨年度は会員資格を拡大して、入会者の増加を図る規約改正をしましたが、将来的には、団体会員とか賛助会員を募集するかどうかも常任委員会において本腰を入れて検討していく必要があります。
 学会活動への会員の皆様の参加としては、学会誌への論文等の投稿と、大会や例会での研究発表やパネラー発表にはじまり、なによりも大会および例会への参加が大きな柱でしょう。このため、できるだけ多くの会員が直接参加できるように常任委員会として引き続き努力していきます。しかし、掲載論文が増えると当然ながら編集出版費が増えますし、大会で研究発表数を増やすには、発表会場の制約の問題を考えなくてはなりません。特に、近年大会参加者が著しく増加したことは、それ自体としてはまことに慶賀すべきことですが、日本東洋・西洋部会ともに500人以上を超える参加者を収容できる講義室や講堂などを複数備えた大学がほとんどないという、ゆゆしき問題があります。従来どおり、当番大学・機関の講義室・講堂・大会議室を利用しつつ、今後は大会をより多くの部会に分けて運営していく方法を模索すべきなのか、あるいは学外のシンポジウム・コンフェランス専用施設などを高額料金を支払って借り、これまでどおりの大会運営を続けていくべきなのかは、やはり検討すべき喫緊の課題です。
 以上、私の学会代表任期中に検討して一応の回答あるいは方針を出すべきであると考える課題を、思いつくままに記しました。学会員の皆様からのご意見を反映させながら、常任委員会の全委員と慎重に協議を重ね、以上の課題や突発的な問題について回答を出していこうと思います。
 学会員の皆様のご支援を心よりお願い申し上げます。

学会代表 小佐野重利

2004年7月4日
美術史学会会員の皆様へ

 この度はからずも美術史学会常任委員代表を務めさせていただくことになりました。これは常任委員による選挙の結果ではございますが、常任委員は全会員により厳正かつ公平に選出されているわけですから、代表も全会員からその任務を命じられたものであることは、改めていうまでもありません。いまや2300人以上の会員を擁する大きな学会の代表として、諸兄諸姉のご期待に添えるかどうか、若干不安がないわけではありませんが、精一杯力を傾ける所存です。何卒これまでの代表委員に対するのと同様、いやそれ以上に、温かいご支援と厳しいご批判を頂戴できれば大変うれしく存じます。
 これから東西両支部の常任委員会にてよく相談協議の上、今後の方針を順次決めていくことになりますが、私といたしましては、とくにつぎの三点に努力することをお約束したいと思います。
 第一に会員の皆様が学会にもっと参加しやすい環境を作ることです。学会に対する興味をもっと高めていただけるような環境を作ることと言い換えてもよいでしょう。毎年春に開かれる全国大会こそ、多くの会員が参加されますが、秋の支部大会、隔月の支部例会は若干さみしいことがあります。これらについては改善の余地が少なくないでしょう。もっとも最近では、時事的問題をテーマとしたシンポジウムには強い関心が向けられるようですので、これはぜひ継続的に行なっていきたいと思います。全国大会には多くの参加があるといいましたが、その際行われる総会は寥々たるものです。また常任委員選挙の投票率も、あまりに低いのではないでしょうか。学会誌『美術史』への参加、つまり投稿については、さまざまな制約があって急に拡大することはむずかしいかもしれませんが、いまのままでよろしいでしょうか。ご意見をうかがいたいと存じます。いずれにいたしましても、会員の皆様には積極的に参加されんことをお願いするとともに、少しでも参加しやすい環境に改善していきたいと思います。
 第二に会員の権利をさらに高めることです。第一が学会内部の問題だとすれば、これは外部に対する姿勢だともいえましょう。とくに現在、美術史を取り巻く状況はきわめて厳しい状況にあります。誰よりも皆様がひしひしと感じていられることでしょう。国立博物館や国立美術館は独立行政法人となりました。地方公共団体の美術館には民営化や休館を視野に入れた動きも明らかになりました。私立美術館にあってはすでに解散したものや、コレクションが散逸してしまったものもあります。そうでないまでも、予算の削減によって作品の新規購入はもとより、展覧会の開催や日常業務に支障をきたす場合もしばしばみられます。独立行政法人化については賛否両論があるとしても、これらに勤務する学芸員の博物館資料に関する専門的、技術的な調査研究を含む職務を行なう専門職としての地位が脅かされていることは、疑いないところです。また国立大学も独立大学法人となりました。ここで美術史の教育研究に従事し、あるいはこれを学ぶ若人の環境は、以前では考えられないような状況になっています。地方公共団体の大学や私立大学においても、似たような状況を示すところが少なくないのではないでしょうか。
 経済状況の変化とそれに伴う構造改革の必要性を考えれば、止むを得ないところがあったとしても、これらに関する美術史学会への諮問は何らありませんでした。これに対し常任委員会はシンポジウムを企画し、美術史学会名で関係諸機関に要望書を出してきました。われわれ美術史学会員の意見が完全に尊重されたとは決していえませんが、一定の役割は果たしたものと自負しています。さらなる改革が予想される現在、よりしっかりと発言していく必要があるように思います。またこれと関連して、学芸員が文部科学省科学研究費補助金の代表申請資格を得られるよう、専門委員会を設けて支援を続けてきましたが、これもかなりの成果を上げることができました。これらの外部に対する発言や働きかけを、これまでにも増して積極的に展開していこうと思います。
 なお日本学術会議連絡委員会のうち、芸術学研究、歴史学研究、東洋学研究の三連絡委員会には、美術史学会から委員を送り出しています。これらにおける美術史の地位を高めることも、外部との関係において緊急の課題であります。
 第三に美術史学会の運営をいかに進めていくべきか、改めて考えたいと思っています。15年ほどまえでしょうか、大きな改革が行われました。運営形態と常任委員の任務、『美術史』への投稿などがすべてはっきりと規定されて明確なものとなり、その結果大幅な会員数の増加をみることとなりました。この趨勢は現在も維持され、運営もきわめて順調に進んでおります。これもひとえに会員皆様のお陰と感謝に堪えないところです。しかしこのようなときだからこそ、これからの運営がこのままでよいかどうか、落ち着いて考えてみることも悪くないでしょう。とくに学会を思う心の結晶ともいうべき会費の納入率は、諸学会の中でも非常に高く、将来のために準備を始めた環境整備費も少しずつ豊かになっています。そこで今年度より、環境整備費委員会を新たに立ち上げることを決めていただいたわけです。この委員会には環境整備費の有効な使い方を含めて、もう少し広い視野から学会の将来を展望してもらい、すぐれた提言を行なってほしいと期待しています。しかし何よりも重要なことは、その過程で会員の皆様が積極的に意見を寄せられることはないでしょうか。それなくして、環境整備費委員会も何もあったものではありません。
 私はアナログ人間です。古いものが大好きです。さすがに文章を手書きすることはなくなりましたが、ハードはエプソンPC386AR(1992年製)、OSはMS―DOS(Version5)、ソフトは新松で書いています。それでも大学からのお知らせは基本的にメールでくることになり、一応アドレスも持っています。何かご意見などがありましたら、どうぞ遠慮なくお知らせ下さい。

常任委員代表 河野元昭

2002年5月
美術史学会の現在

 美術史学会は、1949年に会員総数201名で発足した 比較的新しい学会です。しかしながら、その実質的な学問的 活動としては、19世紀にヨーロッパより移入された「美術 」という近代的な概念とその時期に日本で造り出された訳語 のもとで、日本や東洋の美術を把握し始めた明治初年に始ま ります。その制度的裏づけとなったのが、1889年に時を 同じくして行われた、帝国博物館(東京国立博物館)の改組 、帝国京都・奈良両博物館(京都国立博物館・奈良国立博物 館)、東京美術学校(東京芸術大学美術学部)、帝国大学( 東京大学)国史学科(美術史講義開始)の創設などです。そ れに関わったアーネスト・フェノロサ、岡倉天心らは、日本 で最初の美術史学者たちなのです。
 美術は、明治時代の国民国家形成過程でのナショナル・ア イデンティティーを具現するものでした。旧来の「書画」の 枠組のなかで、室町時代から江戸時代に編まれた、『御物御 絵目録』のようなカタログや、『本朝画史』のような絵画史 の著作も、それと同様であり、天皇家に対する室町将軍家の 、あるいは中国に対する日本の文化的なアイデンティティー を主張するものであることに変わりはありません。その意味 では、後者のような著作も、日本で最も早い時期の美術史の 文献であると言うことができるでしょう。
 逆に言えば、『本朝画史』『御物御絵目録』の著者の狩野 永納・能阿弥、岡倉天心・アーネスト・フェノロサらも、我 が美術史学会の過去の会員に他ならないのです。  現在、会員総数は創立時の10倍以上、2300名ほどに のぼり、人文系の学会としては、最も大規模なものの一つに 数えられます。研究対象も、ヨーロッパ・アメリカや日本を 含む全世界の絵画・彫刻・工芸・建築、そして東アジアやイスラーム世界のみで行われている書道という広い意味での美 術の範疇に属するものは勿論、発掘調査に伴う古代考古美術 から、インスタレーションなどを含む現代美術、さらにはア ニメーションや漫画まで、従来の美術の概念には含まれては いなかったものをも包摂して、新たな学問的発展を遂げつつ あります。また、ナショナル・アイデンティティーの問題の ように、美術から社会や地域総体を見直す、これまでには存 在しなかった研究上の枠組も形づくられつつあり、他の学問 領域にも本質的な影響を及ぼす、人文学のなかでも最もアク ティブな学問分野の一つとなっています。
 それを支えるのが、2001年12月の「文化芸術振興基 本法」の成立など、文化に対する社会全体の認識の変化です 。また、従来ほとんど認められてはいなかった美術館・博物 館学芸員の科学研究費代表申請資格が、各館個別の申請によ り取得可能になったのもその現れであり、美術史学の学問的 発展は、このような認識の変化を具体的かつ豊かな文化的成 果へと転じるものであることを信じて疑いません。
 現在だけではなく、未来の美術史学会の会員にも語りかけ るのが、本ウエッブサイトです。これを見て、美術史学に興 味を覚え、いつか当学会に参加されるかたたちを心から歓迎 いたします。

美術史学会代表委員  小川裕充

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